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2008年12月13日 (土)

4回目のアーズローカス

昨日京都のアーズローカスでのミニコンサートを終えた。
今年から日本にいる機会が多くなったのでぜひ
続けたいと思って5月に始めて4回目
今年最後の会だった。
以前にもこのブログで書いたがアーズローカスは
京都の北、北大路通りに面して建っている小さなビルで
その5階に天窓から自然光が優しく入ってくる小さな
音楽空間がある。
日本での滞在期間が以前よりも長くなったのを
利用して僕は2ヶ月に一度ここで
<こんなシャンソン知ったはりますか?>と題した
小さいコンサートを行っている。
Wasa10

普段のコンサートでは出来ない、歌わない歌を歌い、
その歌の背景を話したり、日本語訳を読んで
作者の話をしたりそれに対して自分の思いを話したり、
僕が30年フランス、パリに住んでその間に知り得た、
覚えた、見つけた歌、歌って来た劇場の事、
一緒に仕事をした歌手、ピアニストのことなどを
話しながら歌も歌う。
その歌も出来る限り僕がコンサートでは
歌う事の少ない、出来れば日本で聞く機会の少ない歌を
選ぶ事にしている。
こういう事は長くフランスで生きて来た僕だから出来る事
ではないかと思って。
毎回このようにこの会の主旨(というと大仰になるが)
というか僕の思いを説明して始めるのだがそれでも
終わった後、もっと私たちの知っている歌を歌って欲しい
というご意見を僅かながらも頂いてしまう。
この<私たち知っている歌>という一見具体的に聞こえる
要望程抽象的かつ的を絞るのが難しい意見はない。
<私たちの知っている歌>というからには誰でも、
特にフランスの歌やシャンソンに興味がない人でも
メロディーくらいは知っている歌ということになる。
フランスのシャンソンが日本全国に流れた時代は
1950〜60年でそのほとんどがフランスの当時の
流行歌ですべてが日本語になって日本全国に流れて行った。
僕はその時代小学生だったためシャンソンには
興味がなかった。僅かに60年後半にピアフを知り
シャンソンに目覚めて行くので時代が僅かにずれている。
それ以後長い間をフランスで生きているので音楽文化は
日本にいる方とは多いにずれがあるため日本で皆が知っている
シャンソがどんなものなのかいまいち把握出来ないでいる。
世界的に有名なシャンソンはたとえば枯葉、愛の讃歌、
バラ色の人生、くらいかもしれない。
それに加えて日本で有名なシャンソンは何だろう
とあちこちインターネットで日本のシャンソン関係の
サイトを覗いてみた。
上記の3曲に加えてオーシャンゼリゼ、雪が降ると続くが
これもおおいに年齢によって差がある事もわかった。
この誰でも知っている歌というのはあくまでも
現在50歳以上の人達の意見で30歳以下の人達にとっては
フランスのシャンソンはほとんど知らない分野で
従って彼らにとって
(いわゆるシャンソンファンという人達は除いて)
<皆の知っているシャンソン>というものはないのである。
同時に日本ではフランスのシャンソンは一つのジャンルで
このジャンルを歌うものはそれに関わる総てとは言わなくても
知られている大方のものはレパートリーに入ってなくて
はならないような風潮があることにも気付いた。
要するにうどん屋という看板の上がっている店に入ると
一応何処の店にもある品はメニューの中にはなければならない。
うどん屋に入ってきつねうどん、しっぽく
(これは京都にしかないかもしれないかまぼこと椎茸、湯葉、
生麩がはいているだけのもの)鍋焼きうどんや素うどん
がないのは考えられないことであり、
許せない感覚と同じである。
過去のこのアーズでのコンサートに一度アンケートを書いて
頂いた事がある。その中に一人<不要な歌がありました>と
書いて帰られた方があった。聞く必要もない歌と言う意味だろう
と思うが、これは厳しいと驚いた。
僕は歌の選曲にいつも精魂を注いでいる。
流行歌手ではないので1年のうちに1、2度しか聞いて頂く
機会がない。きっと一生のうち一度の方もあるだろう。
そういうかけがえのない機会に歌う歌の選曲は非常に重要なこと
なので色んな面から考えて歌を選ぶ。メロディ、歌詞共に
僕の存在の証となる様なものを選ぶ様に心がけている。
それでもその日の歌のいくつかは<不要>と切り捨てられた。
それは歌そのものの善し悪しの問題ではなくきっと僕の未熟さが
その歌に魂を入れる事が出来なくてデクノボウのような人形と
凹凸のない薄っぺらい背景しか描けなくて聞いて下さった方々
の前には何の映像も見えなかったのだと思って悔やんでいる。
もちろん人それぞれの趣向の問題というものもあるけれど
きっと好き嫌いのことでは<不要>とまではならないだろうから。
余談になるが1970年以降現在にいたるまでの
日本の流行歌を僕はほとんど知らない。
今年、日本の新聞でサザンオールスターズが休業とか引退とか
(どちらだったか覚えていないが)のニュースが大きく
報道されていて、彼らのヒット曲は唯一団塊の世代がカラオケで
歌える歌であるとのコメントがあった。
僕もその世代に近いがこのグループの歌は何一つ知らない。
ボーカルの桑田桂祐の名前も顔も声も知らなくてこのニュースで
初めて知った。
僕の周りの日本人の友人はあきれてついでにつぎつぎと
日本の人なら誰でも知っていそうな70年代前半から90年
くらいの流行歌の題名やそれを歌っている歌手の名前を口に出し
僕がどのくらい知っているかをテストした。
彼らの予感は的中して50人中僕が名前を知っていたのは
ほんの2、3人で、その人が歌った歌となると
1、2曲になってしまった。
結局それだけ僕は日本には居ず日本の音楽分野とは
離れたところで生きていた事が歴然として自分自身唖然と
すると同時に面白いとさえ思ってしまった。
僕はもともとあまのじゃくで小さい時から
多くの人が知っていること、好まれるものや流行には
近寄りたくない癖がありそれが高じてフランス語の選択に繋がり
日本の人があまり寄り付かないフランス語での歌手の選択に
至ったという歴史があるので<皆の知っているシャンソン>とは
一番離れたところで生きている変な歌手なのかもしれない。
とは言うものの現在の僕のレパートリーにはいわゆる
<みんなの知っているシャンソン>の最たる曲も入っていて
歌っている。偶然僕が知って面白いと思い自分の
身体に取り入れ自分の歌に出来たものがある。
愛の讃歌、バラ色の人生、詩人の魂、サンジャンの恋人,
パダンパダン、アコーディオン弾き、群衆などは良く出来た歌で
おおいにリメイクの価値有りとして僕のオリジナルの歌の様に
なってしまった。皆が知っているシャンソンを知らないかわり
ジャックプレヴェールの詩に曲がつき歌になっているものや
大好きなフランソワ・ロゼやゲンズブール、ジャック・ドウーエ
などの日本の人にとっては珍しい曲を沢山知っている。
それに加えてこのごろは日本の詩人が書いた歌を歌い始めた。
日本語で美しく書かれた詩もそれだけでもう歌であるが
それに曲を付ける事でその詩は少し違う色を出して聞く人の
心の襞にしみ込んで行く。
日本語での歌は僕にとって一生、禁断の開かずの間だと
思っていたが日本語で歌う面白さも覚えて、
僕の身体と頭の中でフランス語の歌と不思議にぶつからずに
スムーズに同居が成立し始めた様に思えて嬉しい。
これで僕の身体にずっと何となく何か欠乏していたものが
満ちて来たと感じている。
今年最後のアーズローカスではクリスマスソングをフランス語で
歌ってみた。きよしこの夜、聖なる子の誕生、ジングルベル、
ホワイトクリスマス、プチパパノエルなどのクリスマスソング
に加えてプレベールの詩集から雪かき人夫のクリスマス、
今月の菅美沙緒の仕事は<モンマルトルの丘>
そして日本の詩人は与謝野晶子を取り上げて、<薄暮>
<晩秋>それにリクエストの多かった
<君死にたもうことなかれ>と吉岡しげ美の曲が付いた歌を
晶子の渡仏の逸話を交えながら歌った。
来年春に録音予定の僕の新しいアルバムは
日本の詩人が書いた詩を歌にして綴る、僕にとって初めての
歌の詩集になる予定で今から僕自身楽しみにしている。
もう今年も僅かになってしまった。
今年はもう皆様にお目にかかる機会はない。
どうぞお元気で素晴らしく良いお年を御迎え下さいますように

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コメント

次のアーズローカスは明日ですね。私は5月に聞かせていただきましたが、ワサブローさんの歌は日本語でいうシャンソンではなくて、ジャンルではくくれない、もっと芸術的なものと思っています。それは、文学、絵画、映画、舞台、歴史、フランスの生活様式、フランス人気質など、全てを含蓄した上での曲であり、ステージだと。なので、気軽に聞きにきたら、少し盛りだくさんで消化しきれないのかもしれません。実は、わたしも、フランス語だけだと、プレベールといわれても、よくわからず、でもいいメロディーだな感じるしかないときもありました。それなのに、涙がでてきたり、情景が鮮やかに
うかんできたりして、それこそ、字幕スーパーの映画のように、感動しました。
なかなか選曲は難しいことと思いますが、聞く方の
心が開けばおのずと聞く人の期待の幅が広がり、共振するのではないでしょうか。

投稿: sayuri | 2009年2月 6日 (金) 14時59分

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