« 暑いです! | トップページ | 秋のコンサート »

2006年8月 1日 (火)

フランスのバカンス

今フランスはバカンス真っ最中である。
一昨日僕の住んでいるアパートの上の住人は奥さんと6ヶ月になる男の子それに山の用な荷物やカバンをもって夜中の3時頃に出て行った。
それから1時間ほど後には管理人夫婦とその子供達3人もどやどやと大きな音を立てて故郷のポルトガルへと発って行った。道路の混雑と炎天下での車の移動をさけるためにこのように夜中に発つ人も多い。
この建物には40世帯程が住んでいるがこれで残っているのは我が家を含めてとなりの気の狂った一人暮らしのおっさんといつもほとんど裸で寝ているのが窓越しに見える向いの棟の男性のカップルとその横の年中同じガウンを着ているスノッブなおばはんとの4世帯程だけである。

第一陣が2週間前に出発して、昨日7月最終の土曜日に残りの第2集団が出発し、どの高速道路も恐ろしい渋滞とラジオが叫んでいた。第1陣、第2陣といっても人々のバカンスの出発日が学校の夏休みのように地方ごとに日をずらして国の法令で決められているわけではなくそれぞれ各自がそれぞれの家庭ないし仕事の都合で出発日を決めて出て行くだけの事である。
それでも子供のいる家庭はやはり子供の夏休みに合わせて休暇を取るのでどうしてもみんな同じ時期に大勢が出発することになってしまう。

フランスの学校の夏休みはその地域の学区が属している文部省が決めた休暇ゾーンによりそれぞれ少し違いがある、ゾーンはA,B,Cとあり、ちなみにパリはCゾーンに属している。
普通小、中学、高校とも夏の休暇は7月第1週の土曜日から9月の第1週までの2ヶ月と決まっている場合が多いがそれにもかかわらず実際は6月中に終わってしまうことがほとんどで特に6月10日過ぎに始まるバカロレア(高校卒業資格および大学入学資格)の試験会場になる中学校、高校ではその時期にあわせて授業を終わり夏のバカンスに入ってしまう学校が少なくない。

学校が2ヶ月休みでも仕事はもちろん2ヶ月も休む人はいない(なかには7月入ると早々に休みをとって9月の初めまで仕事に戻らない優雅な僕の知っている絵のギャラリーの主人のような人もいるが)。
フランス人の1年の有給休暇は5週間。それをまとめてとっても分けて取るのも自由である。平均的には夏に4週間冬に1週間と取る人が多いようだ。フランスで有給休暇いわゆるバカンス制度が出来たのは1936年、社会党内閣が実現させた。夏休みは2週間で、週休2日、週40日の労働時間も同時に確立された。
昭和11年にもうフランス人はヴァカンスに出かけていたのです!でもそれまでは一般のフランス人にはこのような長い休みはなかったので始めての年には急にもらえたこの長い休暇をみんなどうして過ごしてよいのか戸惑っていた様子をいつかルポスタージュで見た事がある。

そもそもこのバカンス<フランス語ではvacanceと綴る>という言葉はラテン語の動詞vacare—自由になる、が語源である。
1257年にロベール・ソルボン(Robert Sorbon)がソルボンヌ(大学)を設立。そこで勉強をしていた商人や農民の家の学生達は毎日の勉強に疲れていた。
この中世の時代には学生に与えられる教科書も図書館もなく学生達は先生の講義や授業を一生懸命に聞き取りすべてその場で記憶しなければならなかった。
彼らは疲れた頭を休めるために年に一度8月末から10月最初にかけて夏の休みを取ったのがスランスにおける学生の夏休みの起源である。
その後16世紀にはシャルル・エチエンヌが<フランスの旅の道ガイド>を書き、ベストセラーになったその本は余裕のある人々に自国を見て歩く旅の楽しさを教えた。。
18世紀になると観光という観念が人々に根付き始めイギリスの工業革命と相まって特にイギリスの上流階層にフランスのアルプスは大変な人気を呼びシャモニーには多くの人々が出かけた。
19世紀になり鉄道の普及とともにパリから近いノルマンディは夏の海を楽しむパリジャンでにぎわいカジノも沢山出来て多くのブルジョワ階級や芸術家が出かけた。デユフィやモネの絵にその当時の様子が描かれている。その時代にパリにいた金子光晴もお金に貧窮して日本の扇子や日傘を売りにノルマンディに出かけたと<眠れ、パリ>の中で書いている。
現在、フランス人達の一番のバカンス地はポルトガル、スペインでその次にマルチニック、モーリス島、イタリア、ギリシャと太陽の国が続いている。
日本の避暑とは違い1年の間太陽の少ないフランスでは夏は思いっきり太陽の光を浴びるいわば迎暑なのである。

ちなみに1936年のバカンス初年にはそれでも55万人の人が出かけその翌年にはその数が100万人に達したという。
それで現在はというとなんと4000万人!が毎年この時期にバカンスを取り太陽を求めて出かけて行く。フランスの現在の人口はおよそ5900万人なのでほとんど8割強の人が出て行くわけである。
僕がフランスに住み始めた30年前は8月にはほとんどの店が閉まりまるでゴーストタウンのようだったがこの頃では開いている店も多くなり開いているパン屋を求めて20分も歩く様な事は少なくなったがそれでもこの時期フランスに残っているのは養老院の老人とフランス在住の貧民外国人労働者と優雅な外国人観光客だけである。僕はこのいずれのカテゴリーに入るか一目瞭然んでお分かりになるだろう。
悔しいけれど!

|

« 暑いです! | トップページ | 秋のコンサート »

パリからです」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: フランスのバカンス:

« 暑いです! | トップページ | 秋のコンサート »